先ほどの観測データから、月の軌道の離心率を見積もってみた。
そもそも、月の大きさが季節によって変わるのは、月は地球の周りを楕円軌道に沿って運動しているからだ。実際には太陽からの重力の影響もあって、その軌道はきれいな楕円にはならないかもしれないが、大ざっぱには地球と月の2体問題と見なすことは可能だろう。楕円の長半径をa、短半径をbとすると、焦点fは
と表される。
次に地球と月の距離をRで表すとする。今興味があるのは、見かけの月の大きさが最大の時(スーパームーン)の距離R'と、最小の時の距離R''だが、このときの月の位置は楕円の長半径に相当する場所にあるはず。つまりR'+R'' = 2aが良い近似で成り立つとしてよいだろう。
月の半径をr、地球からみた月を見込む視角を2θとすれば、sinθ = r/Rの関係が成り立つ(高校の数学...)。θ<<1だろうから(つまり、月の半径より月の軌道半径の方がずっと大きいということ。実際、天文年鑑で調べると、r/R〜1.8×10
6 / 3.8× 10
8 〜 5×10
-3 = 0.005 << 1)、θ = r/Rとしてよい(三角関数のテイラー展開...これは大学1年の数学)。今回の見かけの月の大きさの比は、この角度の比と見てよいので、θ' / θ'' = R'' / R' = 1.14(
1.14という数字は観測結果より)、つまりR'' = 1.14R'。
上の2つの結果を組み合わせれば、R'/a = 2/2.14 = 1/1.07を得る。
ところで、月の位置が長半径上にあることから、f+R'=a, f+a=R''の関係も成り立つ。最初の式を(f/a) + (R'/a) = 1と変形すると、上の結果を代入して f/a = 1- (1/1.07) =0.07/1.07=0.0654...を得る。
さて、離心率eは
と定義されているので、焦点の定義式(一番最初の式)より、e=f/aであることがわかる。これは先ほど計算したばかりのもので0.0654...であった。つまり、私の観測から導かれた月の軌道の離心率は e=0.065程度であることになる。
天文年鑑で月の離心率を調べてみると 0.055程度だとある。つまり私の観測の相対誤差は約18%だった。ラフな観測、ラフなデータ処理の割にはまあまあじゃないだろうか?
追記:ふと思い出したのだが、スーパームーンと思って解析した画像データだが、実は当日は梅雨空に曇ってしまって撮影できず、前日雲間に顔を出した瞬間をなんとか撮影したものだった。上では半径を解析するときに月の側面部分を利用したのだが、これだと月齢14日程度の幅しかないから誤差が大きくなってしまう。このデータを利用するなら、月面の上下を利用しないと正確な値は取り込めないということだ。これを踏まえて分析し直すと、R'' = 1.12R'となり、若干小さめの比になった。このわずかな修正を取り込むと、再計算した離心率の値はe=0.057となり、相対誤差はわずか3.6%となった!この観測、なかなか精度が高くて我ながら驚いた。
追記2:そういえば、去る1月4日に
地球は近日点に到達した。遠日点に到達するのは7月4日ださうだが、天文年鑑にはその距離が載っているので、上でやった計算をこれに当てはめてみると、R''=1.03R'となった。つまり、見かけの太陽の大きさの変化はわずか3%しかないということだ。離心率は0.015程度となり、これは月の軌道に比較すれば、ほぼ円軌道といってよい。しかし、この若干の差が計算できるとするならば、私の観測もなかなか捨てたものではない、ということになる。がんばって、この3%の変化を記録できるようチャレンジしてみよう!